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日曜の朝のハミング、三拍子で始まる ── ネグローニ・セルツと、五本の指に入らない産地たち

九月二十日、日曜日。暦の上ではまだ残暑名残りの秋だが、朝の空気にはもう南風の湿り気がない。窓を開けると、台所から珈琲の香りが廊下まで流れてきて、ふと鼻歌が出る。ビートルズの「Come Together」。朝食の支度をしながら無意識に口ずさむこの曲のタイトルを、今週のワインニュースが拾っていた。「Come Together, Right Now, Over Me」──ワイン・エンスージアストの見出しである。集まりましょう、今すぐ、私のところに。日曜の朝にこれ以上ない合言葉だ。

この時期の空は高く、光はまっすぐに落ちる。テラスの椅子に座れば、夏のあいだ忘れていたような微かな冷やかさが手首に触れる。秋分を数日後に控えた日曜日は、夏の終わりと秋の始まりがほんの数時間だけ重なる、一年でいえば潮目のような朝である。その潮目に合わせるように、グラスに注ぐものも、夏の軽やかさから秋の深みへと渡り始める。

三拍子で始まる日曜日の一杯

さて、グラスに注ぐものだが、今週デキャンターがスピリッツ・ブリーフィングで取り上げていたのが「ネグローニ・セルツ」の作り方だった。カンパリ、スイート・ヴェルモット、ジンという重厚な三拍子を、炭酸で軽やかに割る。正午前の太陽の下では、この「軽さの操作」こそが正解に思える。重いアペリティーボは夜のものだ。日曜の昼下がりにほしいのは、苦味と甘味の輪郭を残しながらも、気泡がそれを散らしていくような、声の軽い一杯である。

その感覚に最も近いワインを選ぶなら、第一候補はMionetto「IL」Valdobbiadene Prosecco Superiore Brut。ヴェネト州ヴァルドッビアデーネの丘、規定収量の八割まで抑えて選ぶブドウだけで造られる辛口スプマンテだ。青りんごの香り、白い花のニュアンス、細かい気泡。ネグローニ・セルツの炭酸に近い、明るく正直なつぶやきがグラスの底から立ちのぼる。6,500円前後。日曜の朝の主役としては申し分ない。

二本目は南へ目を向けてMenade Verdejo Rueda Organic 2023。スペイン・ルエダの有機認証ワイナリーが手掛けるヴェルデッホで、レモンの皮を削ったような鋭い酸と、ハーブの青い風味が同居する。グレープフルーツを半分に割ったときに立ちのぼるあの香りを、液体に閉じ込めたようなワインだ。3,300円前後。珈琲の残り香が消えきる午前十時、朝食のテーブルに残るトーストの残りと合わせるのに恰好の酸である。

三本目はDomaine Errenaeus Vigneron Doulos Alsace Blanc。アルザスのリースリング種を主体に造られる辛口白で、フローラルな香りとミネラルの張りが、秋の初めの澄んだ空気に似合う。4,800円前後。酸の向こうにほのかに石の匂いを感じるとき、ワインは産地の風景をそのまま運んできているのだと気づかされる。

五本の指に入らない、だから輝く産地たち

トレンドの話に移ろう。今週のワイン界で最も大きな波紋を広げているのは、デキャンターが発表したDWWA 2026(デキャンター・ワールド・ワイン・アワード)の結果である。注目すべきは表彰台の常連ではない。「Five unexpected stars of DWWA 2026 ── The regions and grapes to watch(意外な五つの星、注目すべき産地と品種)」という見出しが示すとおり、今年は「五本の指に入らなかった産地」が主役を張った。

バルカン半島の原産種が当たり年を迎えた「Going native: Indigenous grapes lead a banner year for the Balkans」もその一つ。ギリシャのアシルティコ、ブルガリアのメルニク五〇、セルビアのプロクパーツなど、発音を間違えそうな品種の名前が、世界の審査員の前で堂々と称賛を集めた。有名産地の真似をするのではなく、自らの土に根ざした品種を磨き上げる。それが数年がかりで実を結び、ついに当たり年として花開いた。

同じくDWWA 2026では、「California’s not dreaming: the state’s wines stand with the best(カリフォルニアは夢を見ていない、最良の仲間と肩を並べた)」という評価もあった。夢ではなく現実としての実力、という言い回しが印象的だ。伝統ある欧州産地の影に隠れてきた「番外」の産地たちが、ブラインド審査という唯一の公平な舞台で、実力そのものを語り始めている。

世界トップのソムリエが捨てたもの

もう一つ、心に残った見出しを紹介したい。ワイン・エンスージアストの記事「Why the World’s Top Sommelier Renounced Luxury to Farm Obscure Grapes(世界トップのソムリエは、なぜ贅沢を捨てて無名の品種を育てる農場へ向かったのか)」。華やかな都会のレストランで最上級のボトルを勧める仕事から離れ、誰も名前を知らないブドウの畑に移った人物の話である。一見すると降格に見える選択だが、記事の中身は逆だ。彼は自分の舌を、誰も掘っていない鉱脈に向けたのである。

これはDWWA 2026の「意外な星」と寸分違わぬ同じ物語だ。価値の中心は、必ずしも華やかな名前の側にあるとは限らない。無名の品種、番外の産地、贅沢を捨てた職人──いずれも「五本の指」の外側で静かに価値を積み上げている。ワインの世界で今起きているのは、中心から周縁への静かな再評価の動きであり、それはワイン離れが囁かれる時代にこそ意味を持つ。価値は減るのではなく、場所を移しているのだ。

本日の三本──日曜の朝に開ける候補

最後に、本日のコラムで挙げた五本をまとめておく。いずれもDWWA 2026のニュースの延長線上に、あるいは日曜の朝の情景の中に見つけた一本である。

  • Mionetto「IL」Valdobbiadene Prosecco Superiore Brut ── ヴェネト/ヴァルドッビアデーネの辛口スプマンテ。青りんごと白い花、細かい気泡。約6,500円。
  • Menade Verdejo Rueda Organic 2023 ── スペイン・ルエダの有機白。柑橘の鋭い酸とハーブの風味。約3,300円。
  • Domaine Errenaeus Vigneron Doulos Alsace Blanc ── アルザスのリースリング主体の辛口白。ミネラルの張りと秋の透明感。約4,800円。
  • Quinta do Ameal Special Edition Douro ── ポルトガル・ドウロの白。ヴィオニエ等をブレンドした上級キュヴェで、樽熟成がもたらす落ち着きとミネラル。約4,500円。
  • Quinta do Crasto Douro Red ── ドウロの赤。深みと力強さがあり、日曜の夕食の肉料理に寄り添う。約5,500円。

日曜の朝、珈琲の代わりにスパークリングを開けてみる。気泡がグラスの縁で弾けるたび、潮目を越えた季節が少しずつ姿を現す。五本の指に入らない産地のワインを、ぜひ今週の棚に加えてみてほしい。価値は、思いがけない場所で静かに熟している。

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