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九月の木曜、残暑に開くカリフォルニアの扉 —— DWWA 2026が証明した黄金の三連覇

九月の木曜、残暑に開くカリフォルニアの扉 —— DWWA 2026が証明した黄金の三連覇

九月最初の木曜日。カレンダーの上ではもう秋ですが、東京の街を歩いていると、首筋にまとわりつく湿気がまだ夏の名残を主張しています。コンビニの棚に秋味が並び始め、夕暮れの空だけが少しだけ高くなった。そんな季節の境目の午後、冷房の効いた部屋でグラスを手に取ったとき──ふと、開けたくなるのは「陽の強い場所のワイン」です。

カリフォルニア。その名前を聞くだけで、納屋のない牧草地と黄金の丘陵、朝霧の漂うソノマの朝を思い浮かべる方は少なくないでしょう。そしていま、この産地が世界最大のワインコンペティションで叩き出した数字は、夢の話ではなくなっています。

三連覇という事実の重さ

Decanter World Wine Awards 2026──通称DWWA。世界中から16,000本以上のワインが集まり、厳密なブラインドテイスティングを経てメダルが授与されるこの大会で、カリフォルニアは2026年、過去最多となる162個のメダルを獲得しました。その内訳は、Best in Show(最高賞)1点、Platinum 3点、Gold 13点、そしてSilverとBronzeが残りを占めています。

とりわけ驚異的なのは、ナパヴァレーのClos du Val(クロ・デュ・ヴァル)がBest in Showを三年連続で受賞したという事実です。今年の受賞ワインは「Yettalil, Stags Leap District 2023」。97ポイントというスコアを叩き出したこのワインは、66%のカベルネ・ソーヴィニヨンを主体に、マルベックとメルローをブレンドしたボルドースタイルの一瓶です。ステイグス・リープ・ディストリクトというナパの中でも最も岩肌が露出し、昼と夜の寒暖差が激しいこの一角は、カベルネに骨格としなやかさを同時に与えるテロワールとして知られています。三年連続のBest in Show──これは、DWWAの歴史においても類を見ない記録です。

泡のPlatinumという新風景

もう一つ、注目すべきPlatinum受賞があります。ロス・カルネロスのAvinoDos(アヴィノドス)が手がけた「2022 Blanc De Blanc Extra Brut」です。シャルドネ100%のブラン・ド・ブラン。これはDWWA史上、アメリカのスパークリングワインとして2本目のPlatinum受賞となります(1本目は2025年のChandon Etoile Brut)。ナパヴァレーの新しい世代のワイナリーとして注目を集めるAvinoDosが、カルネロスの冷涼な気候を活かしたキレのある酸と繊細な泡立ちで、シャンパーニュの産地に肩を並べる品質を示したのです。

カリフォルニアというと、どうしても「パワフルなカベルネ」や「リッチなシャルドネ」というイメージが先行しがちです。しかし今回のDWWA 2026の結果は、カリフォルニアがその枠に収まらないことを如実に物語っています。アンダーソン・ヴァレーのピノ・ノワールや、ロス・カルネロスのスパークリングまで、多様な品種とスタイルが同時に世界最高水準に達している──それが「162個のメダル」という数字が意味するものです。

秋の食卓に合わせる一本

九月の食卓は、夏の軽やかさから秋の重みへと少しずつ移行する季節です。冷やっこのような夏の一品はもう終わりで、栗ご飯、秋刀魚の塩焼き、あるいは豚の角煮のような、奥行きのある味わいの料理が並び始める。その移行期のテーブルに、Clos du ValのYettalilは驚くほど自然に溶け込みます。

ステイグス・リープ・ディストリクトのカベルネが持つ「黒い果実の凝縮感に加えて、スパイスとミネラルの骨格」という構造は、和食の照り焼き系のタレや、醤油ベースの煮込み料理とも相性が良いのです。750mlでだいたい8,000円から12,000円程度の価格帯。特別な夜に開けるには申し分のない一本です。

そしてもし、残暑の木曜の午後に「まだ少し軽めのものがいい」と思うなら、AvinoDosのブラン・ド・ブランはどうでしょうか。カルネロスの朝霧が育んだシャルドネの酸は、秋刀魚の塩焼きにも、冷やしたトマトのサラダにも寄り添ってくれます。スパークリングでありながら、シャンパーニュのような重たさがなく、カリフォルニア特有の果実の透明感がある。まだ日本への輸入ルートが限られている銘柄ですが、専門店の取り寄せリストにぜひ加えておきたい一本です。

「陽の強い場所」が生む涼やかさの逆説

カリフォルニアのワインがこれほど幅広く評価されるようになった背景には、単なる技術の向上だけでは説明できないものがあります。一つは、冷涼産地への意識的なシフトです。アンダーソン・ヴァレーのように太平洋の霧が入り込む谷間、ロス・カルネロスのようにサンフランシスコ湾の冷風を受ける丘陵──これら「カリフォルニアの中の冷たい場所」が、かつての「パワフル一辺倒」ではない、繊細さと張りのある酸を持つワインを生み出し始めています。

もう一つは、新しい世代の醸造家たちが「カリフォルニアらしさ」を再定義していることです。AvinoDosのようにナパに拠点を置きながら、伝統的なオークの過剰な使用を避け、果実本来の純度を前に出すアプローチ。Clos du Valのようにボルドー品種のブレンドで「三連覇」という持続性を示す造り手。彼らは「カリフォルニア=パワフル」という神話を、内側から静かに書き換えています。

九月の木曜日、窓の外にはまだ蝉の声が残っているかもしれません。けれどグラスの中に注がれたカリフォルニアは、もう夏だけのものではありません。残暑の日にも、初秋の夜にも、その幅の広さで寄り添ってくれる。DWWA 2026の162個のメダルは、そのことを世界に向けて宣言したのです。

週末に向けて、いつもとは違うカリフォルニアを開けてみませんか。グラスの底に、陽の強い大地が醸し出す涼やかさが、きっと待っています。

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