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金曜の残暑に、泡と風を。― ポルトガルの泡とサルデーニャの「反抗的白」が変える、夏の終わり方





金曜の残暑に、泡と風を。― ポルトガルの泡とサルデーニャの「反抗的白」が変える、夏の終わり方 – ワイン会ナビ

金曜の残暑に、泡と風を。― ポルトガルの泡とサルデーニャの「反抗的白」が変える、夏の終わり方

■ 午後六時のオフィスの「もう一仕事」

金曜の東京は、どこか罪悪感のようなものに満ちている。定時が過ぎた瞬間、デスクの周りで空気がふっと緩む。誰かが「今日は少しだけ早く帰ろうか」と言う。けれど外に出れば、まだアスファルトから陽が返ってきている。八月の下旬ともなると、残暑というよりも「陽の執念」とでも呼びたくなる照り返しが、紺色のスーツの裾を掴んで離さない。こういう夕暮れに、我々は何を飲むべきなのだろう。冷えた白をひと口で空にするのもいいけれど、今週はもう少しだけ、物語の詰まったグラスを傾けてみたい。

■ 「私たちはなぜ、ポルトガルの泡なしで生きてこれたのか?」

Wine Enthusiast の編集者が、最近こんな問いを立てていた。”How Have We Lived So Long Without Portuguese Bubbles?”――私たちは、どうしてポルトガルのスパークリングなしで、ここまで長らく生きてこられたのか。その挑発は、ある意味で正しい。フランチャコルタもクレマンもカヴァも、そしてシャンパーニュも、世界中で「泡の序列」を形成してきたけれど、ポルトガルのそれだけは、長い間、その語りの外側に置かれていた。

ところが Decanter World Wine Awards 2026 の結果を見て、少しばかり目線が動いた。審査員が本気で「冷涼系スパークリング」のカテゴリーを開き直し、北部・ミーニョ地方から南部・アレンテージョまで、ポルトガルの泡が多面的に評価されている。とりわけ目を引いたのが、Vinha das Vinhas Velhas Espumante do Vinho Verde Bruto Reserva 2018、そして南部アレンテージョの石灰岩土壌から生まれる Herdade de São Miguel Espumante Bruto Natural 2022 だ。

前者は古い樹齢のブドウから造られ、青りんごの皮を剥いたような香りと、潮風を連想させるミネラリーが同居する。海辺の金曜日を、もう一段階だけ遠くへ連れていってくれるような泡である。後者はアレンテージョの白亜土壌に由来するキレの良さが身上で、酵母との長い対話を経て「何もないところからの旨味」を引き出している。どちらも、シャンパーニュの価格帯の三分の一以下で、物語の三倍は深い。夏の終わりに「もう一仕事」を終えた金曜の夜に、これ以上の相棒がいるだろうか。

■ 島の中心で、起こった反乱 ― サルデーニャの「反抗的生産者」たち

泡だけでは終わらない。八月の最終週、私たちはもう少しだけ、地中海の真ん中へ目を向けてみたい。Wine Enthusiast が “In Wild Central Sardinia, Rebel Winemakers Are Making Their Mark” と報じた一群の生産者たちだ。中央サルデーニャ、バルガーニャとヌラーの谷。山羊が放たれ、古いオリーブの樹が傾き、石垣と風だけがブドウ畑を守るような土地で、若者たちが「ワインの法律」から少し距離を取りながら、自分たちの流儀で瓶を詰めている。

たとえば Audarya Trebbiano d’Abruzzo (※サルデーニャ版)ではなく、中央サルデーニャで実際に白ワイン造りに挑む Dedus Vermentino di Sardegna 2022。あるいは Ferruccio Deiana Sardinian White Blend “Antico Gregori” 2021。これらは単なる自然派ワインではない。彼らは「DOC の境界線を、自分たちの区画ごとに書き直している」のである。葡萄の品種はヴェルメンティーノと、ノスiola(サルデーニャ土着の白品種)、それに微かな malvasia。土壌は花崗岩と頁岩が複雑に絡み合い、海からの風と、山からの夜間の冷気が、ブドウに強烈な酸と塩を残していく。

それを飲むとき、口の中に広がるのは「反抗」というよりは「静謐な反乱」の味だ。法律の外側で、自分たちの舌だけを信じて葡萄を絞り、瓶に詰めた人間の体温のような、白ワインがある。夏の金曜に、そういう一種の「静かな暴力」を含むワインをゆっくりと飲むのは、案外と誠実な一週間の終わり方だと、私は思っている。

■ 夏を「閉じる」のではなく、夏を「手放す」

日本の夏の慣習は、どちらかというと「秋を待つ」という受動の所作だ。残暑見舞いのように、文字の上では秋に手を差し出すけれど、身体はまだ夏の中にいる。けれどワインには、もう少しだけ別の作法がある。それは、夏を「閉じて」しまうのではなく、葡萄の記憶として「手放す」ことだ。

ポルトガルの泡が持つ「海から陸への風」。サルデーニャの白が持つ「山から海への反乱」。この二つの風味が、今夜という金曜の午後六時、交差する瞬間を、私は愛している。オフィスの窓を少し開けて、風が通るのを待つ。グラスの底から立ち上がる泡を眺めながら、今年の夏が、自分にとってどんな味の輪郭を持っていたのかを、反芻する。

来週の月曜から、また新しい季節が始まる。だから今夜だけは、夏の記憶を、もう少しだけ鮮明にしたまま、グラスを空にしたい。泡を一口含めば、ポルトガルの海辺が見える。白を一口含めば、サルデーニャの石垣の影が見える。そうやって私たちは、来るべき秋へと、静かに手を離していく。

■ 今夜、ワイン会の引き出しに忍ばせておきたい一本

最後に、今週のワイン会・夏の終宴に、一本だけ加えるなら。私は迷わず Vinha das Vinhas Velhas Espumante do Vinho Verde Bruto Reserva 2018 を推す。古い樹齢がゆえに、キレと旨味のバランスが取れた一本で、乾杯の瞬間だけでなく、食事を通じて表情を変えてくれる。合わせるなら、軽く�した鰯の酢漬け、あるいはチーズと蜂蜜をシンプルに。これ以上ない、夏から秋への橋渡しになるはずだ。

もしもう少し「物語の濃い一本」を求めるなら、中央サルデーニャの反抗的白を一本。法律の外側で造られたワインは、語るべき物語を、必ずやグラスの中に連れてきてくれるだろう。

金曜の夜、あなたもぜひ、泡と風と、反乱の白を。


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