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名前そのものが製法である ── フランチャコルタ、泡の本命の静かな自信

月曜の夜。九月半ばの東京は、昼に残暑の名残を残しながらも、日が落ちればもう空気に確かな秋の気配が混じり始める。スズムシの声がどこか遠くで鳴り、空には細い三日月。世間のワイン談義が週末に集中しがちなのは知っている。それでも今日はあえて、月曜の夜に開ける泡の話をしたい。Wine Enthusiast が「私たちが待ち望んでいたスパークリングの本命」と評した、フランチャコルタである。

舞台はイタリア北部ロンバルディア州。ミラノの東、イゼオ湖の南岸に広がるなだらかな丘陵地帯だ。氷河が削って運んだ砂礫と粘土、石灰質の混ざった土壌に、シャルドネ、ピノ・ネロ、ピノ・ビアンコが畑をなしている。湖がもたらす日中と夜の温度差、そして湖畔の霧が、ブドウに細やかな酸とアロマを授ける。シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵の手法で造られるこの発泡酒は、一九九五年にDOCGへ昇格した。イタリアの発泡ワインの最高峰として、名実ともに認められた瞬間だった。

名前が製法である

フランチャコルタの本質をひとことで言うなら、「名前そのものが製法を意味する」という点に尽きる。イタリアでは通常、瓶内二次発酵で造ったスパークリングには「メトード・クラッシコ」とラベルに明記する必要がある。ところがフランチャコルタだけは例外だ。名を名乗れば、それがすなわち製法を意味する。この土地で、この手法以外の泡は許されない──という強い規律が、原産地呼称そのものに刻まれている。曖昧な妥協を許さないこの姿勢こそ、フランチャコルタのアイデンティティである。

この確信には、歴史の浅さを補って余りある裏付けがある。現代フランチャコルタの始まりは一九六一年。醸造家フランコ・ツィリアーニと実業家グイド・ベルルッキが、初の瓶内二次発酵ワインの瓶詰めに成功したときだ。数百年の時を積み上げてきたシャンパーニュに対し、フランチャコルタは半世紀余りで世界のグラスの隣に並んだ。若さを支えるのは規格の厳格さだ。ノン・ヴィンテージで瓶内熟成最低十八ヶ月。サテンとロゼは二十四ヶ月、ミレジマート(ヴィンテージ)は三十ヶ月、リゼルヴァに至っては六十ヶ月もの瓶内熟成が義務づけられている。泡の繊細さは、この沈黙の期間から生まれる。

土着品種、エルバマットの復権

さらに見逃せないのが、二〇一七年にブレンドを認められた土着品種、エルバマットの存在だ。熟すのが遅く房も小さい品種だが、豊かな酸を運んでくる。シャルドネやピノの国際的名前に隠れがちだが、この土地に根ざしたブドウが復権したこと自体が、フランチャコルタの成熟の証だろう。地名の由来は諸説あるが、中世に免税特権を抱えた「自由な土地」に求める説が有力だ。自由と規律が同居する土地だからこそ、名前が製法であり続けてきたのかもしれない。

サテンという質感

なかでもまず手に取ってほしいのが「サテン」というスタイルだ。白ブドウのみで造られ、瓶内圧を通常より低く抑えた、絹のような舌ざわりの泡。勢いではなくきめ細かさを旨とするこの味わいは、泡を「強さ」ではなく「質感」で選ぶ楽しみを教えてくれる。九月の夜なら、秋鯖の塩焼きや天ぷらとともにグラスを傾けたい。泡の酸が魚の脂を切り分け、口中がいっとき清澄へと導かれる。本命たるゆえんは、食卓との距離の近さにもあるのだ。

選び方の指針もシンプルだ。日常の一杯にはフレッシュなノン・ヴィンテージのブリュット。その年ごとの表情を楽しむならミレジマート。熟成の深みを味わう夜にはリゼルヴァ。仕上げの糖分を示すドザッジュの幅も広く、辛口好みならエクストラ・ブリュットやブリュット、食後の余韻にはデミ・セックを選べばよい。規格が明快だからこそ、初心者が迷わず一本を選べることも、この産地の美点だ。

銘柄なら、カ・デル・ボスコのブリュット、ベラヴィスタのサテン、ビオロジカル栽培の先駆者バローネ・ピッツィーニなどが日本でも入手しやすい。シャンパーニュの半分から三分の一ほどの価格で、製法も規格も引けを取らない味わいに出会えたとき、泡の選択肢はぐっと広がるはずだ。

月曜の夜に泡を開けるのは、少し贅沢かもしれない。けれど、いいものを、ふだんの夜に。それがフランチャコルタという本命の、静かな自信の正体である。細い三日月が満ちていくように、今夜のグラスも少しずつ、秋へと満ちていく。

(文字数:1812文字)

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