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夏のワインは、なぜモードの九月に仕立てられるのか ── ヴェラ・ウォン×シャトー・ルビーヌが示す季節の逆説

九月十五日、火曜。白露を過ぎて十日近くが経つのに、東京の昼下がりにはまだ蝉の気配が残っている。朝晩の風だけが秋の温度で頬を撫で、クローゼットの前で「衣替えは、まだ早いか」と指が止まる。そんな二週間である。街のショーウィンドウは、迷う私たちをよそに、もう来年の春夏物を着てモデルを立て始めた。ファッションという商売は、常に半年先の季節を照らす。ワインにもモードがある。そしてその「流行」は、飲む瞬間ではなく、仕立てられる瞬間に生まれる。今日のワインの話は、この「暦のずれ」から始めたい。

ブライダルの伝説が、ロゼを仕立てた

今週、欧米のワイン・ライフスタイル系メディアで静かに話題になっているのが、ブライダルドレスの伝説として知られるデザイナー、ヴェラ・ウォンの名を冠したロゼの誕生である。相手役は、プロヴァンスで「クル・クラッセ(特級)」の肩書きを持つシャトー・ルビーヌ。「Vera Wang Rosés」——ファッションの文法で言えば、これは立派な「コラボレーション・コレクション」だ。しかも時流はボトルの造形にも及んでいる。香水のボトルを思わせる限定パッケージが話題のクロエのワイン・コレクション、ラベルに触れると旋律が奏でられるという「音楽するラベル」の試み。ワインはいま、農産物から「モードの対象」へと、静かな衣替えの途上にある。

淡い色のほうが、ずっと難しい

ここで一つ、常識を逆さにしてみたい。「ロゼの色が薄いのは、手抜きでは」という疑問はしばしば聞かれるが、醸造の現場では真逆である。赤ワインのように皮を長く浸けるのは、色も構造も確実に得られる確実な仕事だ。一方、プロヴァンスの極淡色のロゼは、黒ブドウを破砕後すぐに優しく圧搾し、皮との接触を数時間で切り上げて初めて生まれる。わずか数時間の誤差が、淡いサーモンと桜色を分かつ。サニエと呼ばれる「血抜き法」——赤用の発酵前タンクから一部を抜き取ってロゼとする手法もあり、その選択一つで色も骨格も変わる。色を深めるのは容易で、色を削ぎ落とすことのほうがはるかに繊細な技を要求する。淡いピンクとは「引いた色」であり、引くことは足すことより難しい——これは、ミニマルなドレーピングの美学と案外よく似た構造をしている。

終わった夏を売る、という逆説

本題の逆説に戻ろう。ロゼの「旬」は紛れもなく夏である。それなのに、最もモードなロゼの披露が、夏の終わりの九月に行われるのはなぜか。答えはファッションの暦にある。ニューヨークのコレクションが来夏の服を着せるように、九月に仕立てられたロゼは「終わった季節の残り物」ではなく「来たるべき夏の予約」なのだ。白のドレスの仕立て屋がヴェラ・ウォンであるように、プロヴァンスはロゼの仕立て屋である。実際、シャトー・ルビーヌのようなクル・クラッセのロゼは、若いうちの果実味も魅力だが、二、三年の熟成で輪郭が丸く円熟していく。つまり今、九月の棚からロゼを買い込み、セラーの奥で秋冬を眠らせておく——これは半年先の季節のチケットを先に手に入れる行為であり、コレクションの招待状を受け取るのと同じ快感なのだ。「夏にしか飲まない飲み物」という常識は、実は我々の側の思い込みにすぎない。

今日の一杯 ── 残暑の食卓に、淡いロゼを

では今夜は、まだ残る暑さの食卓に、淡いロゼを一本。手に取りやすいのは、やはりクル・クラッセの名に連なるシャトー・ルビーヌのロゼ。イチジクや白桃を思う芳しい果実味に、プロヴァンスのハーブを想わせる淡い苦みが尾を引く。合わせるのは秋鰹のたたき風カルパッチョ、焼き茄子の揚げ浸し、塩麹のチキングリル。ワインの酸が魚の脂を流し、ほのかな苦みが香ばしさを引き立てる。ヴェラ・ウォンのロゼが店頭に並ぶのを待つのもいい。ボトルに仕立てられた季節を、一足早く着てみる——贅沢とは、季節を一つ先に予約することである。今夜、セラーにロゼを横たえるのは、クローゼットの奥に来夏のドレスを仕込むのと、まったく同じ所作なのだ。

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