「味が分からない」は最強の武器。私が初心者ばかりのテーブルを愛する理由

「すみません、ワインの味、正直よく分からないんですけど……」
ワイン会を開いていると、月に何度かこの言葉を聞く。
申し訳なさそうに、でも誠実に。まるでテストで白紙の答案を出すみたいな顔をして。
そのたびに、私は心のなかで小さくガッツポーズをしている。
「分からない」が場を温める理由
ワイン会のテーブルには、ときどき不思議な力学が働く。詳しい人が多いテーブルでは、会話が“知識の披露合戦”になりがちだ。品種を当てること、産地を語ること、ヴィンテージの良し悪しを論じること——それ自体は楽しいが、そこには「正解を知っている側」と「知らない側」の見えない壁ができる。
ところが、初心者ばかりのテーブルでは、その壁がない。
「なんか、夏の夕暮れみたいな味がする」
「私は……おばあちゃん家の縁側?」
「えっ、それ分かる! なんか懐かしいよね」
答えがないから、感じたことをそのまま言葉にする。ワインの専門用語なんて知らなくても、その人だけのボキャブラリーで味を描写しはじめる。そしてその言葉が、不思議なほど周りの共感を呼ぶ。

ソムリエが教えてくれないこと
ワインスクールに通えば、「カシスの香り」「なめし革」「第三アロマ」といったテイスティング用語を覚えられる。それは確かに便利な道具だ。共通言語があれば、ワインの特徴を正確に伝えられるようになる。
でも、それは“翻訳ツール”であって、“感動そのもの”ではない。
はじめてピノ・ノワールを飲んで、「あ、これ好きかも」と目を丸くした瞬間。渋くて飲めなかったカベルネが、半年後のワイン会で「あれ、美味しいかも?」に変わった夜。——その驚きや喜びには、専門用語では捕まえきれない“生の温度”がある。
そして私は、その温度に触れたくてワイン会を開いている。
「間違い」が存在しない世界
初心者のテーブルには、もうひとつ大きな美徳がある。
それは、「間違い」という概念がないことだ。
「これって赤ワイン? ロゼ?」
「ブルゴーニュってどこの国ですか?」
「ワインって冷やしたほうがいいんですか?」
経験者なら恥ずかしくて聞けないようなことを、初心者は堂々と聞く。そしてその質問に、テーブルの誰かが「私も分かんない!」と笑って乗っかる。その瞬間、場には安全な空気が満ちる。知らないことを知らないと言える空気。それは、どんな高級ワインよりも贅沢な環境だと私は思っている。

主催者の、ささやかな告白
こう書くと、まるで私が最初からワインに詳しかったように聞こえるかもしれない。
正直に言う。私も最初は「味が分からない」側だった。
はじめてワイン会に参加したとき、隣の人が「このワインはミネラル感がすごいね」と言った。私はグラスの中を覗き込んで、必死に“ミネラル感”を探した。何も分からなかった。ただ、少し冷たくて、すっきりしていて、美味しいとは思った。
あの日の「美味しいとは思った」が、今の私の原点だ。
だから、初心者の方がワイン会に来てくれるたびに、あの頃の自分に再会する気持ちになる。味が分からなくても、場を楽しんでくれれば、それでいい。味が分かるようになるのは、その先の話だ。順番を間違えなければ、ワインはいつだって優しい飲み物だから。
あなたの「分からない」を、待っています
もし今、ワイン会が気になっているけれど「自分には早いかな」と迷っているなら。
断言します。早すぎることは、絶対にない。
味が分からなくても、ワインの名前が読めなくても、グラスの持ち方に自信がなくても。
あなたが「分からないけど、楽しそう」と思った、その直感だけを信じて来てほしい。
初心者ばかりのテーブルで、私はいつも最高の夜を過ごしている。
次はそこに、あなたの席を用意したい。